人間寿司

 寿司屋の夢を見た。

 回転寿司に入ると、まずわたしたちは入り口から一番近い席に座らせられる。店内は繁華街の飲み屋のように細長く、奥へ続いていて、その先は薄暗い。コートを脱いだので冬だった。

 目の前に若い賃労働者がい、彼が寿司屋特有の威勢良い挨拶を言う。お茶が出される。わたしたちがそのお茶を飲むと、椅子がごうごうと音を立て、店の奥へと移動を始める。

 人間が動く寿司屋なのだ。

 椅子が止まるとそこにはまた新しい店員がいて、店員として彼はわたしたちに寿司を出す。注文をした覚えはない。わたしたちにはみな同じ赤身魚が出されて、ここではそれしか扱っていないという。わたしたちが食べ終わると、またなめらかに椅子が動きだす。少し動いて椅子は止まり、そこにはまた同じような店員がいる。さっきとは別の寿司が出される。振り返って来た方を見ると店員によって皿が片付けられようとしている。そのさらに奥の席には次の客がいてお茶を飲んでいる。人間がベルトコンベア上につらなる様は、テーマパークのアトラクションのようでもある。

 効率化のために人間を回すことを寿司屋は覚えたという。人間を回すことによって回転寿司は、つねに握りたての寿司を提供すること、寿司を乾燥から守ることを可能にした。それはつまり寿司の尊厳の保証なのだった。人間の利便性を犠牲にして、寿司の尊厳を保証する、新たな倫理のあり方が回転寿司にも適用されているのだという。寿司と人間の権利を秤にかけその折衷案を模索するということ。それは新しい思想のかたちである。

 店内は大きなU字を描いていて、わたしたちは店の奥で折り返して入口へ向かう。会計を済ませる。おいしかったとわたしたちは言う。ありがとうございました、と言うための店員がそこにはいる。

 コートをはおり、追い出されるように店を出ると、わたしは目が覚める。