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夜の散歩、氷点下、暖かさ

 昨日の夜、20時くらいから、2時間ほど街をぶらぶら歩いた。

 私は散歩がすごく好きだ。深夜徘徊は特に良い。

 歩きながらいろいろなことを考える。そして、そのほとんどを忘れてしまう。今は何も覚えていない。それでいい、そう思える。忘れてもいいことがたくさん生まれるから、私は散歩が好きなのだと思う。

 短歌のような、そうではないような適当な散文を、スマートフォンでツイッターに投稿しながら歩いた。

 引用しておく。

 

 

 電気を全て消しても部屋のあちこちがかすかに光る僕たちの国

 

 雪の溶ける音が全く聞こえない夜に何ができるのだろう

 

 

 なにひとつ持たずに散歩していたら神に間違えられてしまった

 

 駐輪場が雪に埋まっていて僕は眠る誰かのチャリを思った

 

 雪を踏みながらしゃりっと噛むグミがわりと普通でなんかさみしい

 

 コンビニに出入りするたび白くなる景色は僕のメガネのせいだ

 

 

 駅行きのバスにふたりのおじさんとひとりの女子学生が乗ってた

 

 特に買うわけじゃないけど百均でつっぱりポールを品定めする

 

 みとめ印が無数に突き刺さっているみとめて欲しい人の一覧

 

 

 人間の黒眼をひとりで見つめていると宇宙から灰色の雪が降る。

 

 

 マフラーを巻くのを忘れてしまっていた。スマートフォンを操作するため、手袋も外していた。手先がひどく冷たかった。途中、コンビニに何度か立ち寄り体を温めた。そうしなければ、凍えていただろう。

 店内に入る。メガネが白く曇って、何も見えなくなる。見えない視界の中で、私は、「文明の暖かさ」を思っていた。「いらっしゃいませ」という、マニュアル通りの店員の声。「文明の」だなんて、大げさだろうか? しかし、氷点下の街から逃げこんだ「暖かさ」を、それ以外になんと呼べばいいのだろう。

 私の手には、文明がぎゅっと握られていた。私の視界は、文明によって白く染まった。

 確かに、それは「暖かさ」だった。

 

 深夜の街はひどく寒く、それでも街灯は輝いていた。氷を踏みながら、私は下宿に帰った。